魚話その207 シン・リアルタイム骨取りその1 ~使用している器具や薬品など~

●チカメキントキの全身骨格を例に

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このブログの全盛期は長い大学院生の頃で,2010年前後は卒論・論文投稿・就職・引越的etcがてんこ盛りで疲弊,社会人になってからは魚のホネがメインになってしまいネタの多様性確保ができず,更新が途絶えた次第.

さて.
今から15年前に「リアルタイム骨取り」というタイトルで魚の全身骨格作製の様子を公開した.
当時は薬品による除肉を行っていたが15年間で手法が二転三転し,最近ひと段落ついたので,改めて現在の手法を公開. 

 

Fig. 1 ミノカサゴの全身骨格
2009
年作製(下段)と2019年作製(上段)


今回は「僕はこういう手順でホネ取りをしていますよ」という,ふわっとした紹介調で書くつもりだ(安全衛生管理に関連する項目以外).
そもそも魚の骨格標本を作ろうとしてここに辿り着く人は,既に詳しい人が多そうだし,ホネ取りハウツーサイトもいっぱいあるので,今更ドヤって書いてもな…と.

さて.
現在の僕のホネ作業はこんな感じ.

 

Fig. 2 作業フロー

 

使用している道具と薬品は以下の通り.
状況に応じて適宜追加・省略しているが,使用頻度が高い道具のリスト.

 

1. 道具

 

Fig. 3 使用している道具
1) バット…刃先の保護とサイズ展開の多様さ・価格から,PP(ポリプロピレン)製を愛用.
2) 手袋…食用魚メインだが,手に臭いや汚れがつくと他の作業ができないし,有害な薬品や死体を扱う時に備えて手袋慣れしておくという目的も込みで.
3) ハサミ…よく切れるものを.
4) ピンセット…除肉用に鉤付きと頑丈なやつを3本(HOZANのPP-101やPP-103,PP-105),組立用に1本(KFIのK-3とか)を愛用(Fig. 4a).
5) スパチュラ…除肉時に肋骨の間等のクリーニングに使用している.マグロのすき身を取るような感じで使用.
6) メス…カッターナイフやデザインナイフ等で代用可.
ただし,カッターは構造上どうしても刃がガタつくので,僕はほぼ使わない.
交換式ではなく割高だが,ホームセンターや模型店で超精密ナイフ的な商品名でメスと同じ商品を入手できたりもする.
7) ブラシ…隙間の洗浄や,脳をほじくり出すのに便利.
8) 紙…キッチンペーパータオルやキムワイプ等,状況に応じて適宜使用.

僕は学生時代から使い慣れた解剖器具を使用しているが,よほど小さな魚でなければ,ホームセンターや100均等で購入できる商品でも精度的には問題ない.
ただし,除肉時はヌルつく肉や皮をしっかり掴めることが重要なので,内面がギザギザもしくは鉤付きが便利(世の中にいっぱいあるのでメーカーや品番を指定するつもりはない).

 

Fig. 4 お気に入りのピンセット
a) ホーザンの強力ピンセット(左)と通常のピンセット(右)の厚み比較,b) 有鉤ピンセット先端部の拡大

 

2. 薬品

 

Fig. 5 使用している薬品
1) オキシドール:漂白で使用.タッパーに溜めて使っている(ロック付き蓋やねじ蓋容器だと発生したガスを逃がせず破裂することがあるので危険).
薬品同士の混合で爆薬生成のリスクがあるので,脱脂で有機溶剤を使う人は,しっかり揮発させてから使用.
2) 無水エタノール, 3) アセトン, 4) ベンジン:脱脂で使用.いずれの溶液も互いに混ざらぬよう,しっかりホネから揮発させる.
魚種やホネの状況,使用環境によってはアセトンやベンジンは使用しない.
5) 接着剤:組立に使用

 
アセトンやベンジンといった有機溶剤は,内臓へのダメージが蓄積したり,薬品同士が混じって爆発物ができたり,火災が発生したり等々,命に関わるリスクを孕んでおり,使用・保管・廃棄のいずれにおいても適切な運用が必要なので,無理に使わない.
部活動で顧問の先生にサポートしてもらえる人,もしくは自分で稼いだ金で薬品を買えるようになってから(その頃には社会的責任が備わっていると思うので)でも良いかなと思う.
水道にそのまま捨てるのは論外だし,ホネにも薬品にも興味がなく事情も把握していない親に「なんか事故った/捨て方わからん廃液出たんだが…」と丸投げするのも酷だ.

また,住んでいる市町村や,薬品の種類・量によって廃棄方法等も変わってくるので,ここでは「各自の責任で購入前にしっかり調べて!」とだけ書いておく.
試薬であれば,SDS(Safety Data Sheet)という薬品の説明書が入手できる(Fig. 6).
「ネット上の詳しい人」はたくさんいるが,ぶっちゃけ画面の向こうで面倒見ている人がなんか自分の手に負えなそうなトラブルが起きていても「連絡に気づかなかったわ…ごめんごめん」で済ませることもできてしまえるわけで,基本的には自分とすぐ近くにいるリアル友人・先生あたりでなんとかできる範囲の手法で留めておくのがいいと思う.
現場の様子から判断が必要なこともあるし…
リアル交友関係はホネに限る必要はなく,化学系まで範囲を広げておくと,ホネ取りクラスタより試薬に詳しい人の選択肢が増えるはずなので,かなり心強くなる.

 

Fig. 6 安全データシート(SDS)に記載されている項目
  

3. 作業環境

我が家は工作とホネ取りを行う部と生活スペースとは分けており,作業部屋には局所換気装置を追加することで除肉時や薬品処理時の臭気対策を行っている(Fig. 7).
また,食品と混同せぬよう冷凍庫も分けている(Fig. 8a).

 

Fig. 7 我が家の作業環境 
a) ホネ取り兼工作部屋全貌,b) ホネ取りエリア,c) 除肉中に換気装置を使用している様子

 

 

Fig. 8 a) ホネ用冷凍庫兼資材部屋,b) 冷凍保管の様子 c) 8年前に水ごと冷凍した魚のヒレの様子

 

4. ホネにしやすい魚 

普段僕がホネ取りしているのは,20~30cm程度で鮮魚店に並んでいる魚.
ただしウナギなどのにょろり系,サケ類,イワシやニシン類辺りの魚類はパーツ数が多いので,パーツ欠損なく仕上げようとすると全身骨格は面倒.
軟骨魚類も収縮と変形が酷く,今回紹介する方法とは別の方法で作業することになるのでパス.
それだけ注意すれば,食事の時にかじって『骨が硬い』と感じた魚なら好きなやつで(多分)大丈夫だと思う.
撮影と除肉作業は地味に時間がかかるので,冷凍保管して日程調整をする.
1か月以上先になるようであれば,水と一緒に凍らせる等の冷凍焼け対策をする(Fig. 8b, c).

準備で疲れたので,一日目終了.


そうだ,一応リアルタイムという言葉は入っているけれど,執筆と画像編集の時間分のラグは勘弁してくださいまし.

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