魚話その208 シン・リアルタイム骨取りその2 ~胴体の除肉するよ~

●チカメキントキの全身骨格を例に 

しばらく余裕があるかなと思っていたら,仕事帰りに寄ったスーパーで良い感じのチカメキントキを発見してしまったので,さっそく更新.

Fig. 1 チカメキントキ(新潟産)


【注意!!!!!】
今回は除肉の回なので,解体中の写真が多数出てきます.
食用に魚を捌く写真とほぼ一緒なのですが,血や内臓が苦手な方がいらっしゃるかもしれません.
それでもご覧になりたい方のみ以下の本文をご覧ください.
【注意!!!!!】
 
15年前の記事と異なるのは,パイプ洗浄剤や入れ歯洗浄剤,塩素系漂白剤(ハイター)といった趣味ホネ界隈で大人気の薬品や熱湯を使わなくなったこと.
大型魚の除肉では熱湯を使用することもあるが,通常サイズの魚では熱湯もほとんど使わなくなった.
薬品除肉は手軽だが,魚では歯やヒレの末端,鰓蓋骨の縁といった細かい/薄いパーツの脱落や損傷・変形が発生することがあり(Fig. 2, 3),修復も面倒という欠点も伴う.
なんだか逆行しているようだけれど,破損少なめの格好良いホネを飾りたいので,手作業メインに戻った. 



Fig. 2 熱湯処理によるカサゴ類の歯抜け
歯が残っているイズカサゴ(上段)と歯が抜けたカサゴ(下段)
上下で種が異なるので厳密な比較にはならないが…歯が抜けてしまった時のイメージとして.
小さいパーツだけれど,抜けると結構目立つ上にナマズやカサゴのようなおろし金系の歯を持つ魚種は修復もはや不可能.

 

Fig. 3 次亜塩素酸ナトリウム処理によるワカサギ尾ビレ軟条の破損
10倍希釈なのでかなり濃いと感じるかもしれないが…もっと薄くても長時間放置すれば同じことが起きるかもということで,参考程度に見てください…
ちなみに軟条は数珠つなぎの構造物なため,どこから欠けるかわからない.
また,どの除肉用薬品も無縁ではないし,なんなら漂白で使用する過酸化水素水でも発生しうる.

 

1. 撮影

人によって記録方法は異なると思うが,メモなりスケッチなり写真なり,複数の方法でたくさん残していくのが良いと思う.
良い感じ(に見える)全身写真が1枚撮れても,「棘と鱗が同色で見辛かった…」「もう少し斜めから見たかった…」と後悔したことが多々あったので,こまめに記録するようにしている.
完成後に魚種を同定するのは困難なので,種同定と記録の時間はしっかり確保しておきたい.
僕は記憶力に自信がないので,1尾の除肉で数百枚は撮る.

除肉作業と組立作業はそこそこの期間が開いているはずで,写真を見返しても撮影意図を思い出せないこともあるので,僕は三角形にカットした黒マステを添えて撮影し,撮影意図も残すようにしている(Fig. 4).

 

Fig. 4 黒マスキングテープの活用
a) ニシン上神経骨(肉間骨の一種)の付け根部分を指している様子,b) 愛用している黒マスキングテープ(15mm幅)
細かいパーツの付け根や突起の位置など,背景に紛れて見辛くなりがちな被写体の撮影に愛用している(使い捨てにできるので便利).


 

また,情報の記録ではないが,組立時にもう1尾用意して参考にするという方法もある.
資料はいくらあっても困らないので,骨格図が載っている文献等も事前に探す.
ただし,個人作製の写真に関しては取り漏らしや破損もたまにあり,共倒れになる可能性があるため,鵜呑みにせず参考に留めている.


さて.
除肉開始.

 

2. 剥皮
背ビレの根元付近に刃を浅く入れ,ピンセットで皮をつまみ,担鰭骨に気を付けながら皮と筋肉の間に刃を滑り込ませ,皮を剥く(Fig. 5).
魚種によっては筋中に肉間骨が張り巡らされているため,ホネの空間配置をあまり把握していない場合は皮と筋肉は分けて取った方が無難だ.
剥皮により力を入れなくても刃を進められるようになるため,華奢な肉間骨の存在にも気づきやすい.
胸ビレ周辺は後擬鎖骨を破損しがちなので注意.
また,剥製を作るわけではないので,皮は細切れでいい.

 

Fig. 5 剥皮の様子
a) 剥皮開始,b) 左半身の剥皮が終了

 

3.除肉
刃の進め方は全然違うが、調理法でいうところの5枚おろしを参考に,胴体を五ヶ所に分けて除肉している.
肛門から刃を入れ,腹ビレの付け根まで刃を進め,取れる分だけ内臓を除去する(Fig. 6).
胸ビレ付け根の辺りに心臓と太い血管があり,そこから出血しがちなので,ティッシュを丸めて突っ込み,可能な限り血液や腹腔内液を吸い取る.
また,ヒレを支える骨や肋骨、肉間骨に注意.

 

Fig. 6 除去した内臓
食道や心臓は頭部を分断してから除去すると楽.

 

皮と内臓を除去したら,再度背側から刃を入れ,いわゆる五枚おろしみたいに筋肉を切り取る(Fig. 7).
鮮魚店で入手可能なスズキ目の食用魚ならシンプルな棒状の肉間骨が多いと思うので,背側から進めた刃先が肉間骨に当たったら刃を体表側に向け,背身を回収するように除肉する.
その後肉間骨列の腹側に切れ込みを入れ,肋骨や尾椎の血管棘に沿って刃を進め,腹身を回収するように除肉する.

 
Fig. 7 側面の除肉
a) 上椎体骨の位置(点線部分),b) 除肉が済んだ様子,c) 肋骨(黒矢印)と上椎体骨(白矢印)


 

チカメキントキの場合は肉間骨として上椎体骨が1列並んでいるだけなので作業しやすいが,ニシン目やサケ目魚類のように上神経骨や上肋骨,上椎体骨といった複数種類の肉間骨が1つの脊椎骨にくっついて筋肉の中に埋まっている場合は注意が必要だ.
ちょっと脱線するが,普段「背骨」と呼んでいるひと繋がりのホネを脊柱と呼んでおり,それぞれを構成する中心部のパーツ1つ1つを脊椎骨と呼ぶ.
そして,脊椎骨の左右にくっついているのが肋骨や肉間骨(上椎体骨,上肋骨,上神経骨等)で,これらの有無は魚種によって異なる.
脊柱は頭のすぐ後ろ~内臓が収まっている辺りまでは肋骨がくっついており,その一群を腹椎,それより後ろ側を尾椎と呼ぶ(Fig. 8).
厳密には腹椎と尾椎は横突起の有無や血道弓門の有無で分けられるのだが,長くなるので今回は省略.

 

Fig. 8 脊椎骨の比較
a) バショウカジキ全身骨格と腹椎・尾椎,b) ニシン腹椎,c) ニシン尾椎,d) ティラピア腹椎,e) ティラピア尾椎
1. 上神経棘 2. 神経棘 3. 上神経骨 4. 椎体 5. 上椎体骨 6. 上肋骨 7. 肋骨 8. 血管棘
b~eはいずれも右斜め前方より撮影.

ここまで除肉できたら,脊柱がかなり露出していると思うので,刃物の先端を脊椎骨に刺して連結部分を探し出し,頭部付近の脊椎骨を数個残して胴体と分断し,水とともに頭部を凍結保管する(Fig. 5).
頭部は時間がかかるので,僕の作業スピードでは平日に胴体と頭部の状肉をこなすのはちょっとキツいのだ.

 

Fig. 9 a) 頭部/胴体の分断,b)頭部の保管


これで胴体に集中できるようになった.
脊柱の神経棘・血管棘の間に残った肉はブラシやスパチュラ等で落とす(Fig. 10a).
肋骨や神経棘・血管棘間の膜は薬品処理時に脊柱や鰭のバラケ防止のため残しておき,漂白後に除去している.
また,脊髄や血管もピンセットや歯間ブラシ等で取り除く(Fig. 10b).


Fig. 10 a) スパチュラによる除肉,b) 脊髄の位置(上の黒三角)と血管の位置(下の黒三角)


肋骨と肉間骨はそれぞれの隙間に刃を入れておき,少しゴツめのギザ付ピンセットで根元を押さえながら作業すると,除肉中に抜け落ちるリスクが減る(Fig. 11).
複数本まとめてやろうとしたり,根元を押さえずに力を入れて作業すると,ホネが抜けてしまうので注意が必要.
また,骨表面にピンセットが直接当たると傷がついてしまうことがあるので,小さいハサミやメス等でチマチマ除肉したり,脱脂と漂白後に肉をふやかして爪でしごくこともある.

 

Fig. 11 a) 肋骨除肉前,b) 肋骨周辺の除肉の様子,c) 肋骨除肉後

 

ここまでの作業が終わったら,冷水に数時間漬け,何度か水を交換しつつ血抜きを行う(Fig. 12).

 

Fig. 12 血抜きの様子


長時間浸しておくと雑菌が繁殖して腐敗したり歯や軟条が脱落していくので,数時間で回収している(就寝中に放置していて何度か失敗した).
また,温水は血液が固まって除去しづらくなるので注意が必要だ.
最後にアンコウの吊るし切りのごとくフックでどこかいい感じの場所にぶら下げ,微風を当てて乾燥(Fig. 13a, b).

 

Fig. 13 a) 乾燥の様子,b) 乾燥に用いている卓上扇風機

 

バットなどに寝かせて乾かしても良いが,軟条末端が壁面に貼り付いて切れてしまったことがあったので,それ以来鮮度が良く軽い魚に関しては吊るして乾燥するようになった.
タチウオのように長くて柔軟な魚の場合は,ロール状に巻いて脱脂用の容器形状に合わせて乾かしている.
ただし,この時も軟条末端の破損が怖いので,竹ひご等で容器壁面と密着しないようにする(Fig. 14).

 

Fig. 14 壁面から浮かせつつ容器形状に合わせて乾燥させている様子(タチウオ)


疲れたので今日はここらで終了.


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