魚話その165 もう魚しか見えない その04
※SeeSaaブログ2010年06月24日掲載記事を移植しました
最初は本の引っ越しの話.
最大の懸念事項であった書物の引越しは自力で運ぼうとものの,試しに詰め込んでみて唖然.
ただ以前はルアー製作部屋を兼ねていたため大量の埃にまみれており,職場移転の隙に無休で整理していたら,軽い喘息が発生.
というわけで,書籍代を削り,本の引越しだけ業者依頼することにしたのであった…
さて.
つまみ食い同様,片付け中に読む本は大変面白い.
今回も,小説の地層から,なぜか‘倭漢三歳圖会’の原書を発見.
後は言わずもがな…
良品・全巻揃えで100万円以上するのだが,不揃いの書籍は様々な情報を欠くため,格安で入手することができるのだ.
ちなみに僕は魚の部分だけを数千円で入手した.
これは他の和本に関しても言えるので,もし興味はある人は探してみると良い.
ただし,似たようなことを考える人は多いこともお忘れなきよう.
ところで,倭漢三歳圖会をはじめとする江戸時代の本の折り返しには墨付きカッコ(【)のような模様が入っている.
和本は週刊誌の袋綴じのような構造をしており,半分に折った紙を重ねているのだ.
そして上記の模様は折る際のセンター決めに付けられるそうだが,魚の尾鰭を想起させることから‘魚尾(ぎょび)’と呼ばれている.
このうちの正尾が魚尾のイメージになっているのだろう.
タイやカツオ,ボラ,コイといった当時の‘メジャー’な魚の尾鰭は正尾であり,魚尾の形とも結びつきそうだ.
これがウナギやサメ,もしくはすり身しか見たことがない人々が住む地域が印刷の中心地だったら,きっと魚尾という名前にはならなかったのではなかろうか(‘鳥嘴’とでも呼ばれていたか?).
脱線したが,魚がモチーフとして用いられているのを見ると,当時の人々にも馴染み深い生物であったことを再認識でき,ちょっと嬉しくなる.
ちなみに現在でも魚尾は使われている.
小中学校の頃に作文で使用した大きめの原稿用紙の中心部分にある記号がそうだ.
ただのメーカーの模様と思いきや,数百年前から連綿と続く由緒正しき模様なのだ.
当たり前の話だが,江戸時代の和本は今後減ることはあっても新刊が出ることはない.
したがって保管に注意を払う必要がある.
図書館や博物館レベルの保管方法は不可能でも、紙秩(和本用のファイル)と,中性紙箱という保管容器への収納方法がある.
紙帙(かみちつ)というのは,非常にしなやかな和本(和紙自体がとても柔らかい)を,保管場所が限られた施設で縦置き収納するために考案されたモノだ.
ちなみに和本は平積みが本来の保管方法とされる.
中性紙を用いるのは,和本劣化の原因である紙の酸性化を避けるためだが,特殊な紙製品ゆえ取扱店が僅少で,価格も高い.
茶箱は桐製で,買うと高いモノらしいが,祖母から譲り受けたため価格は不明だが,桐製の容器に入れるのが,和本の保管に良いとされる.
いずれにせよ,保管のためには多少の出費を考慮する必要がある.
紙箱は大きいから良いとして,和本を1冊購入する度に紙秩一部(1000円)の出費が嵩むのだ.
1000円あればあんな本やこんな本も買えるのに.
困ったものである.
本日の魚
アムールチョウザメ(Acipenser schrenckii)
シイラ(Coryphaena hippurus)
タナカゲンゲ(Lycodes tanakai)
ドチザメ(Triakis scyllium)
アフリカハイギョ(Poropterus annectens)
ホテイウオ(Aptocyclus ventricosus)
参考文献
新版 魚類学(上)(松原 喜代松 他,恒星社厚生閣)第1版 P16-19
和本入門(橋口 侯之介,平凡社)第1版 P39
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