魚話その212 シン・リアルタイム骨取りその6 ~クリーニングするよ~

 ●チカメキントキの全身骨格を例に


ここからはちまちま作業のターン!
軟組織が残っている部分を濡らしたキムワイプでふやかし,ピンセット等でちまちま除去する.
ホームセンターで手に入る有機溶剤対応の細筆(コシが強めのやつ)の先端をカットしたブラシも便利だ(Fig. 1).

 

Fig.1 クリーニングで使用する器具
先端がしっかり合うピンセットがあると,作業効率が断然違う.
僕が学生の頃の実習では,「先端が精密なピンセットを曲げたら切腹するくらいのつもりで大事に使ってください」と言われたことも…

全身をふやかすのではなく,1ヶ所(例えば尾ビレのみとか)ふやかし→クリーニング→一晩乾燥→別の場所を…といった感じで作業している.
また,作業に夢中になって周囲が見えず,あちこちにぶつけてしまい軟条の先端を破損してしまうこともある.
ここまで来て破損するのは絶対に避けたいので,スチレンボード等を利用し,繊細な部分を保護している.

Fig. 2 クリーニング時の破損防止用の保定

 1. 脊柱
脊柱が緩んで体軸が歪むのを防ぐため,軽く絞ったキムワイプで表面の肉だけをふやかす.
神経棘や血管棘の間の膜や脊髄,血管,周辺の膜もこの時に除去する.
必要に応じて歯間ブラシなども併用すると綺麗になる(Fig. 4).
神経局や血管棘の間の膜は担鰭骨と見分けづらいこともあるが,ふやかすと硬さに差が出るので,落ち着いて選別したい.
魚種によっては脊椎骨の強度に不安が残る事もあるので,脊髄クリーニングの確認がてら脊髄が通っていた穴に針金を入れ,補強を行うこともある.

 

Fig. 3 脊柱のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後

2. 肋骨&肉間骨
肉間骨のみ連結部位を記録してから外し,個別にクリーニング.
肋骨は接続部をふやかして角度を微調整できるメリットの方が大きいため,肋骨は外さずギリギリまでクリーニングすることが多い(Fig. 5).

 

Fig. 4 クリーニングのため一時的に外した肉間骨
接着した肉間骨の角度はアセトンを染み込ませたキムワイプで緩ませることにより再調整可能(要換気).

Fig. 5 肋骨および肉間骨のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後
 

3. ヒレ
末端部がかなり破損しやすくなっているので,慎重に作業する.
作業対象となるヒレの鰭条を全てふやかし,1本ずつほぐす.
軟条は(左右の結合まで)過剰に分離してしまう恐れがあるので,ほぐしすぎには注意(Fig. 4).
メス等を使う場合は,軟条の切断に注意.
鰭条がほぐれたら,色が付いた皮をピンセットで剥がす.
目立たぬようであれば,無理に攻め込まずほどほどで切り上げる.
鰭条の付け根付近は軟組織が多く黄変しやすいので,ピンセットを使って丁寧にクリーニングする.
冒頭で触れた毛先カット筆で鰭条の流れに沿って撫でると,残った皮や膜が浮いて掴みやすくなる.

Fig. 6 軟条の構造(マダイの左胸ビレ軟条を例に)
軟条はれ付け根から末端にかけて多数のパーツが連結しており,さらにそれらのパーツが中心で貼り合わさって1本の軟条を構成しているので,ほぐしすぎには注意が必要.
 

Fig. 7 ヒレのクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後

4. 肩帯&腰帯
擬鎖骨の凹みに肉が,鰓側に厚めの皮が残りがちなので,きっちり除去する(Fig. 8).
薄い部分が破損しやすいので注意.

Fig. 8 肩帯および腰帯のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後
赤矢印が除去対象となる軟組織.

5. 頭骨
全体的に凹凸が多く,特にくぼんだ部分に貼り付いた皮が取りづらい.
鼻骨周辺や神経頭蓋の内側に有色の皮が残りやすいので,丁寧に除去.
特に神経頭蓋の内側(脳が収まっている空間の天井部分)は見落としがちで,外側を擦ってもきれいにならない時は,内側のクリーニングで改善することも多い.
小さく丸めたキムワイプや歯間ブラシで擦ってみて色が落ちるようであれば,しっかりクリーニング.
鰓蓋骨の裏側の皮も目立つので,除去する.
頭頂部や鰓蓋のような最初に視線が行きがちな部分は少しでも残っていると目立つので,丁寧に作業.
また,側頭骨周辺の薄皮も見落としがちなので,軟組織が残っていないか確認する.

Fig. 9 頭骨のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後
赤矢印が除去対象となる軟組織.
 

Fig.10 鰓弓のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後

6.顕微鏡を用いたクリーニング
魚のサイズや視力,老眼等々で作業しづらいこともある.
そんな時はルーペや実体顕微鏡を使うのもありだと思う.
総合倍率が4~8倍もあれば,かなりの戦力になる(むしろ高倍率だと作業しづらい).
ホネ以外にも使う人は奮発するもよし,模型やホネ作業の補助用であれば,中古や海外製品まで視野に入れると2~3万円から入手が可能だ.
眼鏡式ルーペや拡大鏡付きライトスタンド等も試したが,作業後の疲労感や相性もあり,現在は実体顕微鏡に落ち着いている.
肉眼での作業にこだわるのもありだが,最終的なゴールがホネを仕上げることにあることを忘れないようにしたい.

Fig. 11 我が家の実体顕微鏡

 

Fig. 12 軟条末端のクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後
右下の黒い丸棒は0.5mm径のシャーペンの替え芯.


圧倒的に拘束時間が長く,ず~~~~~っと単調作業が続くだけなので,この工程は薬品処理以上に書くことがなかった.
薄くて細い繊維や皮をつまむので,ピンセットの先端がずれているようであれば,微調整しておく.
つまんでいるはずなのに,いつまでも取れない…なんて状況は本当にストレスが溜まる.
この段階までくると,(しっかり脱脂を済ませていれば)臭いもほとんどしないので,快適な部屋でオンライン雑談をしたりラジオや音楽を聴きながら作業をすることも多い.
また,その日の作業前と作業後に写真を撮り,作業の進捗を確認しつつ自己満足するのも重要だ.
とにかく単調作業なので,モチベーションを維持しつつ,できるだけストレスフリーで切り抜けたい. 

Fig. 13 クリーニングが大体終わったところ

クリーニングの前後で結構違うのが分かるだろうか?
疲れたので今日はここまで.


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