魚話その213 シン・リアルタイム骨取りその7 ~組立と整形するよ~

 ●チカメキントキの全身骨格を例に

ちまちまちまちまちまちまちまちましたクリーニング作業もなんとか終わり,ようやく組立.
硬化後も瞬間接着剤用の剥がし液やアセトンで溶かせることから,僕はアロンアルファ等のシアノアクリレート系接着剤を愛用している.
ホットボンドは手軽だが湿気や(比較的短期間の)経年劣化で剥離するので,仮止め以外では使っていない.
また,2液性のエポキシ接着剤も硬化後の除去が厄介なので,支柱や台座の製作以外では使っていない.

さて.
作業スタート.
1. 組立
1-1. 整形台の作製
水中に浮かんでいる魚はヒレが上下左右に伸びており,卓上にベタ置きすると末端に負荷がかかるため,船模型の人が使っている「キールクランパー」をネットで見かけて以来,作業台を使用するようになった.
最近は大きめの魚を扱うこともあり,工作趣味も兼ね金属製の整形台を作った(Fig. 1b)が,スチレンボードや木材を組み合わせたものでいい(Fig. 1a)し,通販で実験スタンドを買ってきて改造するのもありだ.
気まぐれな僕は同時並行で別の魚の整形をすることも多いので,整形台はいくつあっても困らないのである.

Fig. 1 整形台
a) スチレンボード製, b) 金属製
魚種によって形状をアレンジすることはあるが,大体こんな感じ.
スチレンボードはダイソーのカラーボード(450 x 300 x 10mm)の黒を愛用.

1-2. 脊柱の補強
まずは脊髄が通っていた穴に針金を通し,脊柱を補強する(Fig. 2).
元々湾曲していたものがまっすぐになると違和感が出るように,除肉時に撮影した写真を参考に脊柱のカーブを決める.
脊柱のカーブがきつい魚種の場合は,柔軟性が残っている粗整形の段階で針金を通すこともある(錆に注意).
尾椎の奥まで針金を差し込んだら,右側面(or展示から隠れる側)から接着剤を入れ,針金を接着する.
材質は真鍮かステンレスで,魚種やホネの重さ,形状に合わせてなんとなく使い分けている.
ただし鉄は赤錆がホネに移ることがあるので,使わない.
整形作業で水濡れ作業があり,また,完成後も結露等で錆びたりする(めんどい). 

 

Fig. 2 脊柱に通した針金
a) カーブに合わせた真鍮針金, b) 脊柱に通した様子
赤三角は脊柱に通した針金を示す.

1-3. 頭骨と肩帯の組立
以前も書いたが,肩帯は連結具合が微妙にわかりづらいので,左右非対称に残しておくと,接着部位が分かりやすくなる(Fig. 3).
ただし,薬品処理や乾燥時に角度が変わっている可能性もあることと,隣接する肋骨などに接触することでヒレの末端を破損することも多いので注意.

Fig. 3 肩帯との連結
a) 左右非対称にパーツを残した肩帯の様子, b) 頭部との連結

1-4. 頭部と胴体の組立
神経頭蓋と第1脊椎骨の連結部分は位置を決めにくいので,頭骨側に数個脊椎骨を残しておくと,位置決めしやすい…と除肉の際にドヤって書いたのに,すっかり忘れているのが素人魂クオリティ….
負荷が大きく落下しやすいので,整形台に乗せる際は眼窩に標本針を通し,頭部も支える.

Fig. 4 頭部との連結
a) 連結部位の様子, b) 連結後の保持の様子
魚のホネは全体的に軽く,そこまで負荷がかかるもんでもないとは思っているけれど…
接着不備で落下すれば今までの努力が水泡に帰すので,慎重に…慎重に…
 

1-5. 腰帯の組立
除肉時に撮影した情報を頼りに,腰帯先端部を肩帯に接着する(Fig. 5a, b).
肩帯と連結したままの場合は省略.
また,腰帯が頭部から離れ,筋中に浮いている魚種(ナマズとかコイとかホネ取り対象になりやすい魚でも結構多い)の場合は,支柱作製時に合体させる(Fig. 5c).

 

Fig. 5 腰帯の連結
a) 連結部位の様子, b) 連結後の様子, c) 腰帯が後方にある場合(ニシン)
赤三角は接着部位.

2. 整形
とりあえず全体をざっと見て,気になる部分をピックアップしていく.
今回のチカメキントキはヒレの構成がシンプルで粗整形でほぼポーズも決まってしまい整形の効果がちょっと分かりにくいため,過去に撮影したミドリフサアンコウの全身骨格を例に載せてみた(Fig. 6).

Fig. 6 気になる部分のピックアップと整形後(ミドリフサアンコウ)

分解すれば除肉も薬品処理も簡単になるのにわざわざパーツを連結したまま作業を進めてきたのは,関節をふやかすことでポーズの微調整ができるため.
全身を水に入れてまとめて整形しようとするとうまく整形できないので,慌てず複数回に分けて整形していく(特に頭部).
整形の順番は特に決めているわけではないのだが,今までの記事を踏襲して一応番号を振ってある.
強いて挙げるとしたら,大きく動く/動かすパーツを先に,ヒレのようなボリュームが増すようなパーツや末端のパーツ,動きが小さい部位を後にしている.
また,既にいい感じになっている部分の整形は省略することも多い.

整形用の針は昆虫針でも竹ヒゴでも何でも使うが,錆が出る関係で鉄&メッキのまち針は使わない.
最近はステンレス製の長い針を入手することもできるようになり,厚みがある魚の整形作業がとても楽になった(Fig. 7).

 

Fig. 7 整形で使用している針の比較
a) 剥製針, b) 自作のステンレス針, c) ステンレス製まち針(クローバー製), d) 昆虫針(志賀昆虫製)
最近は剥製針を購入しているが,かつては釣具店で購入したステンレスバネ鋼線(天秤仕掛け自作用)で自作していた.
柔らかいスチレンボードに刺すだけなので,適当に研いだ自作針でも十分使える.

さて気を取り直してチカメキントキの整形.

2-1. 頭部の整形
関節付近を程よくふやかし,乾いたキムワイプや針,スチレンボード等を使って保定・乾燥する.
僕が特に注意しているのは,鼻骨の位置(Fig. 8a),鰓条骨の間隔(Fig. 8b),顎の開き具合と上顎パーツの連動(Fig. 9),鰓蓋骨の開き具合,眼下骨の歪みあたりで,結構目立つ.

 

Fig. 8 頭部パーツの整形の一例
a) 骨の整形, b) 鰓条骨の間隔の調整
鼻骨は左右の開き具合と高さが揃うよう調整.
どちらも小パーツかつ連結部分も点付けなことが多いため,クリーニング中に紛失しやすい.
位置が決まったら目立たない部分に接着剤を多めに流している.

Fig. 9 顎の開閉と概要(マダイを例に)
主上顎骨・前上顎骨・下顎パーツの内外関係や開き具合を調整.
魚種によって上顎パーツの動き具合が変わるので,除肉時に確認しておくと良い.
また,主上顎骨末端が下顎パーツの内側に入っている写真をネットで見かける.
違和感がパないので,きっちり直す.

2-2. 肋骨の整形
付け根を軽くふやかして針で固定する(Fig. 10)…だけなのだが,ねじれや左右ズレがある気持ちが悪い.
1本の肋骨に対し複数の針を使用して修正することもあるので,肋骨が多い魚の場合は多めに用意しておくと安心.
また,外れてしまった肋骨は,前後の肋骨の位置関係が決まってから接着したほうがいい感じになるので,数本ならこの段階で接着している.

 

Fig. 10 肋骨の整形
a) 接続部をふやかしているところ, b) 乾燥時の保定の様子

2-3. 鰭条の整形
肋骨同様に個々の鰭条を広げて針で固定する(Fig. 11a).
作業に夢中になって気づかぬうちに先端に触れていることも多いので,作業中の破損に注意している.
鰭条を平面的に広げたいときは園芸ネットで押さえながら乾燥させるときれいに整う(Fig. 11b, ネットの表裏に注意).

 

Fig. 11 鰭条の整形
a) 保定の様子, b) 園芸ネットを使用した保定

2-4. 担鰭骨-脊椎骨の棘の間のクリーニング
担鰭骨‐脊椎骨の間にある軟組織や薄膜をクリーニングしきってしまうと,整形作業中に分離してしまうことがあり,終盤まで意図的に残しておくことがある.
組立と整形が完了すれば脊柱などはもう大きく動かすことはなく,担鰭骨の位置調整も(たぶん)終了しているので,担鰭骨-脊椎骨の間の接続部を薄膜や軟組織から接着剤に置き換える(Fig. 12).

 

Fig. 12 背鰭後半部担鰭骨の仕上げクリーニング
a) クリーニング前, b) クリーニング後

整形はとても好きな作業なので延々と続けてしまいがちだが,適度なところで切り上げる必要がある.
一度全体をカメラで撮影してみると,肉眼で見た時とは別の違和感に気づいたりすることもある(Fig. 13).

Fig. 13 整形後の様子

前回のクリーニング同様,ちまちました作業が多く,ちょっと時間がかかってしまった.
作業の途中で部屋の改装が入ったり,なんやかやと別の用事も挟み込まれ遅延に遅延を重ねた結果でもあるが,リアルタイム更新ということで勘弁してほしい.
そんな感じで今回はおしまい.


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