魚話その214 シン・リアルタイム骨取りその8 ~支柱と台座を作るよ~

 ●チカメキントキの全身骨格を例に

工作のターン!
支柱とか台座の材料や作り方は人それぞれなので,あくまで僕が趣味でやっている方法を紹介する.
イベント出展用と自宅用とで什器を変えることがあるので着脱ギミック付きだが,用途が絞られていれば省略可能な部分も多い.
実は釣り好きからの派生で釣り具を作るのも好きで,工作も20年以上続く趣味の1つだったりする.
電動工具とかガンガン出てくるけれど,別にこれが必須というわけではなくて,各自で好きなように製作すれば良いと思う.
また,ホームセンターのみならず100均や模型店,彫金工具店にも素材や道具やヒントが転がっているので,覗いてみるのもお勧めだ.
特に模型や彫金系の店は,ホームセンターや工作系通販サイトでも見かけないような小さめ金属素材や,痒い所に手が届く便利グッズと出会えるチャンスが眠っている.

さて.


1. バランス取り
落下に注意しつつ,バランスが取れる位置を探す.
頭骨が結構重いので,かなり前方でバランスが取れることが多い.
一度ホネを整形台等に戻し,工作時の埃や破損を避けるため安全な場所へ避難.

Fig. 1 全身骨格のバランス取り
a) チカメキントキ, b) アカタチ, c) ノーザンバラムンディ
バランスが取れる部分を赤三角で示した.
脊柱等に補強金具が入っているので,ホネだけの時とバランスが変わる可能性に注意.

2. デザイン
魚のホネは,趣味ホネ界隈で製作されがちな陸上哺乳類と比べ軽いため,支柱のデザインに関して自由度が高い.
僕が作っているホネの飾り台は支柱,連結金具,台座の3パーツ構成で(Fig. 2),支柱はホネと主軸を,連結金具は支柱と台座を接続するパーツで,台座は支柱を自立させるためのパーツである.

 

Fig. 2 我が家の支柱の模式図(断面図)
各部位の名称はブログ用に僕がとりあえず付けただけなので,一般名ではないことに注意.

一応ホネへの負荷をぼんやり意識しているが,専門家ではないので,建築工学に基づいた設計ではない(Fig. 3).
もしあれこれ調べたければ,博物館の骨格標本の展示を観察するのが良いと思う.
博物館で展示される骨格標本の什器は長期間の使用に耐えるような構造や支え方になっていると思うので,いろいろ参考になる(Fig. 4).

 

Fig. 3 我流の支柱
a) トクビレ頭骨用の支柱, b) トクビレ頭骨を装着, c) 頭骨用支柱に装着するシルエットプレート, d) ウチワフグ全身骨格の支柱, e) ウチワフグを装着
頭骨用の支柱は支柱の根元に全身のシルエットプレート添えたりもしていたのだけれど…糸ノコで毎回切り抜いていたので面倒だった.
 

Fig. 4 博物館展示の支柱の例
a) 透明アクリル棒による支柱, b) パンチングメタルを活用した支柱, c) 壁掛け, d) 台座にネジ固定された金属製支柱, e) 台座にネジ固定された金属製支柱
a~c: 茨城県自然史博物館, d: 須磨水族園 e: 千葉県立中央博物館

3. 支柱の製作
柔らかいアルミの針金で試作し,真鍮やステンレス材を曲げて本番のパーツを作る(Fig. 5).
パーツ同士の接続は,はんだ付けやロウ付け,接着剤,ねじ留めが僕の手札で,TPOに応じて使い分けている.
耐候性や強度はねじ留めやロウ付けがダントツだが,加工が手間だったり焼きなましによる軟化が発生したりもするので,一長一短だ.
また,はめ込み部分は落下や離脱の危険が少ないので,作業の簡便さから2液性の金属用接着剤を多用している(Fig. 5a).
ライターやヒートガンで100度程度に加熱すると,強固な2液性接着剤も融けて外せるようになる(ホネではちょっとできない操作).

Fig. 5 支柱の製作の様子
a) 我が家で良く使う材料, b) 試作, c) 丈夫な素材で置換, d) ロウ付け, e) 完成
最近ニシンやドラド,ノーザンバラムンディといった,体の後方に腹ビレがある(=筋肉中に腰帯が浮いている)を扱っていたせいか,腹の輪郭をイメージしたラインの支柱が個人的に流行中.


材料はFig. 4からもわかるように真鍮やステンレス,鉄,木,プラスチック等,様々な素材が使われている.
僕は加工性や錆びにくさから真鍮とステンレスの丸棒と針金を選定しており,特に主軸は硬いステンレス丸棒を多用している.
これは連結金具と主軸をイモネジ固定しているため,柔らかい素材だと主軸が潰れたり傷がついて抜けなくなる恐れがあるためだ.
また,ステンバネ鋼線は便利だが,長すぎる/細すぎるとビヨンビヨンと揺れてしまう.
ちょっとした振動でしょっちゅう揺れるようなら,ホネへの負担やパーツ紛失のリスクも上がるので,仕様を見直す必要がある.

 

4.連結金具の製作
支柱の太さに合わせ,真鍮丸棒を旋盤で加工し,中心と側面に穴をあけ,側面と底面にねじ加工をしている(Fig. 6)
台座に穴をあけ,支柱の主軸を直接差し込むのでも全然構わない.
イベント出展時の輸送の利便性と,自宅に飾る際は地震や風などによる落下防止のため飾り棚にしっかりねじ固定した金具に移し替えることがある(Fig. 7)ため,連結金具を用いて着脱可能にしてあるだけだ.

Fig. 6 連結金具の製作の様子
a) 模式図(断面), b) 旋盤加工の様子, c) ねじ加工の様子, d) 完成

 

サイズによっては木材や市販の商品(フランジ接手やフランジ金具というものがある)でも代用可能で,そもそも旋盤は必須ではない.
なんなら真鍮製のハトメだって木に埋め込むと良い感じになる.

Fig. 7 自宅の棚に支柱を固定する金具
a) バショウカジキ全身骨格を柱に固定する金具, b) アカヤガラ頭骨を棚板に固定する金具
固定金具を赤三角で示した.

5. 台座の製作
材木やアクリル板に穴をあけ,カンナやトリマーなどを使って縁取り加工し,オイルや蜜蝋,ニスなどを塗って仕上げる.
暗色の台座が好みなら,ステインを併用するのもありだ.
僕は連結金具とねじで台座を挟み込むようにして固定するので,底面から沈めフライスや段付きドリルと呼ばれる刃でねじ頭を埋める穴もあける(Fig. 8).

 

Fig. 8 台座の製作
a) 材木カット, b) 穴あけ加工, c) 縁取り加工, d) 仕上げ材塗り前後の比較(右が塗った後), e) 完成

単に見た目の問題なので切りっぱなしの木片でも構わないのだが,僕は工作用の材料と勘違いして使ってしまうこともあるため,何らかの加工をしている.
少し面倒だが,例えば半身骨格用に半分ずつ仕上げを変えたり,淡水魚用にリバーテーブルの技法を導入したり,魚の名前に合わせて木材を選定して遊ぶこともある(Fig. 9a~c).
面倒なら,飾り台用の加工が施された木材をホームセンター等で入手可能だ(Fig. 9d).
チークやアガチス製(たぶん)で,暗めの仕上げ材を塗れば格好良くなる.

Fig. 9 a) 半身骨格の作品に合わせた台座(フィギュア用の製作依頼品), b) リバーテーブルの手法を応用した台座, c) タチウオの頭骨用に鉄刀木(タガヤサン)で製作した台座, d) 市販の飾り台


6. ラベル製作
工作趣味から派生して真鍮製のラベルを作製している.
少し前まではF式エッチングと呼ばれる,真鍮板の表面を溶かして文字や模様を浮き彫りにする方法で作製していた(Fig. 10).

Fig. 10 F式エッチング法によるラベルの作製
a) レーザープリンタでマスキングを作製, b) 真鍮板に転写, c) 薬品処理, d) エッチング後の真鍮板, e) 塗装, f) 研磨, g) 穴あけ・曲げ加工・表面コート等をして完成
cは中和の様子で,エッチング液は暗色溶液で中の様子が見づらかったので割愛した.
F式エッチングは模型や電子工作関係で完成された手法なので,興味ある人はこちらのサイトを参考にして欲しい.
エッチングに伴う廃液処理法等も載っている(廃液は銅イオンを大量に含むため,排水口への廃棄は法令で禁止されている),

 

エッチングは廃液処理の問題もあり,2022年に入ってからCNCフライス盤という自動削り機で削る方法にシフトした(Fig. 11).
細かさはエッチングに劣るが,僕が住んでいる自治体ではエッチング廃液の処理法がかなり厄介なことが判明したため,引っ越しを機にCNCフライスへの移行を決意,7年後にようやく実現した.

Fig. 11 CNCフライス盤によるラベルの作製
a) デザインした図柄をCNC用のデータに変換, b) 切削, c) 切削終了, d) 塗装, e) 研磨・穴あけ・曲げ加工・表面コート等をして完成
 

ちなみにどちらの手法も文字や模様を浮き彫りないしは溝彫りすることで下地との高低差を作り,塗装後に表面研磨することで特定の部分のみ真鍮が浮かび上がるようにする手法だ.
完成したラベルは,適当な長さにカットした虫ピンと接着剤を併用して台座に固定している(Fig. 12).

 

Fig. 12 a) 虫ピンとラベル, b) 台座に固定した様子

真鍮製ラベルは高級感マシマシだが準備に時間がかかるため,複数魚種のホネが溜まってから作ることが多い.
その都度作るなら,金色シールに自分で印刷して厚紙やプラバンに貼り付けたり,コーヒー染めしてアンティーク調にするのもありだ(Fig. 13).

Fig. 13 コーヒー染めした紙で作製したラベル
ネットで検索すればいくらでも方法は出てくる.
スペースに余裕があれば,モノクロレーザープリンタを買うのもありかもしれない.
トナーは少々高いが印刷可能枚数は多いし,本体は1万円台で買えたりするので…

 

7. ケースの製作
自作しても良いし,フィギュア用のケースに入れても良いし,Fig. 2cのような固定法で額装しても良い.
僕も依頼品に対し特製のケースを製作することもある(Fig. 14)が,自分用のはコレクション棚に入れて埃と虫への対策としている.
現在は剝き出しのホネもあるが,将来的には前面に着脱式のパネルを設け,埃対策を施す予定だ.
チカメキントキに関しては棚に収納予定なので,ケース作製は省略.

 

Fig. 14 ドラド全身骨格用に作製したケース

代案を細かく書いたらキリがないので工作パートはおしまい.
というわけで完成したチカメキントキ全身骨格はこんな感じ(Fig. 15).
寸詰まりの魚ゆえ腹椎2点支持は厳しかったので,腹椎と尻ビレの棘で支える方式にしてみた.
台座はパドックという赤い木で,チカメキントキの鮮やかな赤色を意識してみた.
 

Fig. 15 完成したチカメキントキ全身骨格

 繰り返しになるが,趣味なら予算と場所と時間と相談しつつ好きなように作るのがいいと思う.
廃材利用で材料費0円でも200万円の銘木仕様でも自由だ.
「素人魂のブログで支柱は真鍮とステンレスで作らないといけないって書いてあったので,どの太さの棒を買ったらいいか教えてください」とか言われても僕は困る…というか文章がちゃんと読んでもらえてなくて悲しいし,多分ホームセンターの人は困る.
そんなわけで,シン・リアルタイム骨取りの作業パートはこれでおしまい.
(もうちっとだけ続くんじゃ)


検索タグ

全身骨格
骨格標本


 

コメント

このブログの人気の投稿

魚話その207 シン・リアルタイム骨取りその1 ~使用している器具や薬品など~

魚話その206.5 マダイ天獄~ケータイグラビア編~

魚話その208 シン・リアルタイム骨取りその2 ~胴体の除肉するよ~