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魚話その215 シン・リアルタイム骨取りその9 ~最後に~

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 ●チカメキントキの全身骨格を例に 半年ぶりの更新である. 前回で作業は終了だが,変色や異臭がないかしばらく様子見をしてから完成としている(特に人に渡す場合). 完成直後は白くても,数ヶ月で真っ黄色/まっ茶色に変色してしまったこともあった. 徹底的な真っ白さを目指してはいないが,あまりにも変色が酷い場合は残留した脂が虫やカビ,異臭の原因になり,好ましい事態ではないので, なお,日焼けによりうっすらクリーム色に落ち着くくらいは許容範囲と考えている.   Fig. 1 半年後のチカメキントキ全身骨格 さて. 以降はイベントやSNSなどでホネ話をしている際に出てきた話題や質問を交えつつ. 1.手法の変遷 ざっくり書くとFig. 2の通り.   Fig. 2 作業の変遷   一般的な感覚では「時間がかかり」「面倒くさく」なった感じ. 今回のチカメキントキもたっぷり2ヶ月かかっているし,たくさんの魚をこなしたい人に敬遠されそうだが,全行程の2/3は薬品処理の待ち時間や休日までの時間調整等々によるので,間に別の用事をがしがし詰め込んでいる. 実際チカメキントキの作業待ちで7魚種のホネ取り,依頼物の工作を3件ねじ込んでいた. 2.材料調達とか 企業秘密…といきたいところだけれど、鮮魚店か友人知人らからの釣り・漁労くず拾い・ビーチコーミング・飼育死亡個体等々の譲渡が主だ. たとえ珍魚に強い店舗であっても,天然物なので頻繁にチェックできる距離にある鮮魚店を優先して通っている. スーパーの鮮魚コーナーもピンキリで,スズメダイやベニテグリ,シュモクザメが入荷するような店もあれば,サーモンやマダイの切り身パックしかないような店もある. 新しく土地に引っ越して見つけた鮮魚店で通うか否かを判断する個人的基準は ・マルの魚が並んでいる ・季節によってスズキやトビウオといった魚が並ぶことがある ・○○直送みたいなチラシがある 辺りだろうか. 曜日や季節によっても揃えが変わるので,毎週同じ曜日しか覗いていないようであれば,曜日を変えるのもありだ. あとは珍魚を扱っている店舗からの通販も1つのやり方だと思う. しょぼい話ではあるけれど,珍しい魚を見つけてもあまり入手した店の情報は公開しないようにしている. 他者との競合を防ぎたい…というみみっちい理由もゼロではないが,どちらかというとむやみやたらと問い

魚話その214 シン・リアルタイム骨取りその8 ~支柱と台座を作るよ~

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 ●チカメキントキの全身骨格を例に 工作のターン! 支柱とか台座の材料や作り方は人それぞれなので,あくまで僕が趣味でやっている方法を紹介する. イベント出展用と自宅用とで什器を変えることがあるので着脱ギミック付きだが,用途が絞られていれば省略可能な部分も多い. 実は釣り好きからの派生で釣り具を作るのも好きで,工作も20年以上続く趣味の1つだったりする. 電動工具とかガンガン出てくるけれど,別にこれが必須というわけではなくて,各自で好きなように製作すれば良いと思う. また,ホームセンターのみならず100均や模型店,彫金工具店にも素材や道具やヒントが転がっているので,覗いてみるのもお勧めだ. 特に模型や彫金系の店は,ホームセンターや工作系通販サイトでも見かけないような小さめ金属素材や,痒い所に手が届く便利グッズと出会えるチャンスが眠っている. さて. 1. バランス取り 落下に注意しつつ,バランスが取れる位置を探す. 頭骨が結構重いので,かなり前方でバランスが取れることが多い. 一度ホネを整形台等に戻し,工作時の埃や破損を避けるため安全な場所へ避難. Fig. 1 全身骨格のバランス取り a) チカメキントキ, b) アカタチ, c) ノーザンバラムンディ バランスが取れる部分を赤三角で示した. 脊柱等に補強金具が入っているので,ホネだけの時とバランスが変わる可能性に注意. 2. デザイン 魚のホネは,趣味ホネ界隈で製作されがちな陸上哺乳類と比べ軽いため,支柱のデザインに関して自由度が高い. 僕が作っているホネの飾り台は支柱,連結金具,台座の3パーツ構成で(Fig. 2),支柱はホネと主軸を,連結金具は支柱と台座を接続するパーツで,台座は支柱を自立させるためのパーツである.   Fig. 2 我が家の支柱の模式図(断面図) 各部位の名称はブログ用に僕がとりあえず付けただけなので,一般名ではないことに注意. 一応ホネへの負荷をぼんやり意識しているが,専門家ではないので,建築工学に基づいた設計ではない(Fig. 3). もしあれこれ調べたければ,博物館の骨格標本の展示を観察するのが良いと思う. 博物館で展示される骨格標本の什器は長期間の使用に耐えるような構造や支え方になっていると思うので,いろいろ参考になる(Fig. 4).   Fig. 3 我流の支柱 a) トクビレ頭骨

魚話その213 シン・リアルタイム骨取りその7 ~組立と整形するよ~

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 ●チカメキントキの全身骨格を例に ちまちまちまちまちまちまちまちましたクリーニング作業もなんとか終わり,ようやく組立. 硬化後も瞬間接着剤用の剥がし液やアセトンで溶かせることから,僕はアロンアルファ等のシアノアクリレート系接着剤を愛用している. ホットボンドは手軽だが湿気や(比較的短期間の)経年劣化で剥離するので,仮止め以外では使っていない. また,2液性のエポキシ接着剤も硬化後の除去が厄介なので,支柱や台座の製作以外では使っていない. さて. 作業スタート. 1. 組立 1-1. 整形台の作製 水中に浮かんでいる魚はヒレが上下左右に伸びており,卓上にベタ置きすると末端に負荷がかかるため,船模型の人が使っている「キールクランパー」をネットで見かけて以来,作業台を使用するようになった. 最近は大きめの魚を扱うこともあり,工作趣味も兼ね金属製の整形台を作った(Fig. 1b)が,スチレンボードや木材を組み合わせたものでいい(Fig. 1a)し,通販で実験スタンドを買ってきて改造するのもありだ. 気まぐれな僕は同時並行で別の魚の整形をすることも多いので,整形台はいくつあっても困らないのである. Fig. 1 整形台 a) スチレンボード製, b) 金属製 魚種によって形状をアレンジすることはあるが,大体こんな感じ. スチレンボードはダイソーのカラーボード(450 x 300 x 10mm)の黒を愛用. 1-2. 脊柱の補強 まずは脊髄が通っていた穴に針金を通し,脊柱を補強する(Fig. 2). 元々湾曲していたものがまっすぐになると違和感が出るように,除肉時に撮影した写真を参考に脊柱のカーブを決める. 脊柱のカーブがきつい魚種の場合は,柔軟性が残っている粗整形の段階で針金を通すこともある(錆に注意). 尾椎の奥まで針金を差し込んだら,右側面(or展示から隠れる側)から接着剤を入れ,針金を接着する. 材質は真鍮かステンレスで,魚種やホネの重さ,形状に合わせてなんとなく使い分けている. ただし鉄は赤錆がホネに移ることがあるので,使わない. 整形作業で水濡れ作業があり,また,完成後も結露等で錆びたりする(めんどい).    Fig. 2 脊柱に通した針金 a) カーブに合わせた真鍮針金, b) 脊柱に通した様子 赤三角は脊柱に通した針金を示す. 1-3. 頭骨と肩帯の組立 以

魚話その212 シン・リアルタイム骨取りその6 ~クリーニングするよ~

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 ●チカメキントキの全身骨格を例に ここからはちまちま作業のターン! 軟組織が残っている部分を濡らしたキムワイプでふやかし,ピンセット等でちまちま除去する. ホームセンターで手に入る有機溶剤対応の細筆(コシが強めのやつ)の先端をカットしたブラシも便利だ(Fig. 1).   Fig.1 クリーニングで使用する器具 先端がしっかり合うピンセットがあると,作業効率が断然違う. 僕が学生の頃の実習では,「先端が精密なピンセットを曲げたら切腹するくらいのつもりで大事に使ってください」と言われたことも… 全身をふやかすのではなく,1ヶ所(例えば尾ビレのみとか)ふやかし→クリーニング→一晩乾燥→別の場所を…といった感じで作業している. また,作業に夢中になって周囲が見えず,あちこちにぶつけてしまい軟条の先端を破損してしまうこともある. ここまで来て破損するのは絶対に避けたいので,スチレンボード等を利用し,繊細な部分を保護している. Fig. 2 クリーニング時の破損防止用の保定   1. 脊柱 脊柱が緩んで体軸が歪むのを防ぐため,軽く絞ったキムワイプで表面の肉だけをふやかす. 神経棘や血管棘の間の膜や脊髄,血管,周辺の膜もこの時に除去する. 必要に応じて歯間ブラシなども併用すると綺麗になる(Fig. 4). 神経局や血管棘の間の膜は担鰭骨と見分けづらいこともあるが,ふやかすと硬さに差が出るので,落ち着いて選別したい. 魚種によっては脊椎骨の強度に不安が残る事もあるので,脊髄クリーニングの確認がてら脊髄が通っていた穴に針金を入れ,補強を行うこともある.   Fig. 3 脊柱のクリーニング a) クリーニング前, b) クリーニング後 2. 肋骨&肉間骨 肉間骨のみ連結部位を記録してから外し,個別にクリーニング. 肋骨は接続部をふやかして角度を微調整できるメリットの方が大きいため,肋骨は外さずギリギリまでクリーニングすることが多い(Fig. 5).   Fig. 4 クリーニングのため一時的に外した肉間骨 接着した肉間骨の角度はアセトンを染み込ませたキムワイプで緩ませることにより再調整可能(要換気). Fig. 5 肋骨および肉間骨のクリーニング a) クリーニング前, b) クリーニング後   3. ヒレ 末端部がかなり破損しやすくなっているので,慎重に作業する. 作業対象と

魚話その211 シン・リアルタイム骨取りその5 ~漂白と粗整形やるよ~

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●チカメキントキの全身骨格を例に    今回も液体に浸すだけなので,余談が多めの回. 脂ノリノリだったので,頭骨は有機溶剤脱脂(限定公開記事の方)の最終段階までやってしまったが,いい感じに脂は抜けた(Fig. 1).   Fig. 1 脱脂が完了した様子 脱脂の過不足は脱脂液を透明なガラス板に数滴垂らし,揮発後の残渣(ざんさ)を見て簡易判断する(Fig. 2)もよし,ホネをしばらく放置して変色しないか観察するのでもいいと思っている. Fig. 2 脱脂の確認例 我が家には作業待ちのホネが溜まっていて自動的に放置期間が長くなるので,自然放置による変色の有無で判断することが多い 除肉でも触れたが脳は脂の塊なので,完成直後は真っ白でも,時間の経過とともに残った脳組織が酸化して変色することも多い(Fig. 3). Fig. 3 脳の除去不足で頭頂部が褐変した頭骨(マツカサウオ) さて. 僕がやっている漂白とすすぎの例をFig. 4に示した. 漂白作業は地味に拘束時間が長いので,脱脂済のホネであれば適当に日程調整し,週末や連休の午前中から始めている. 刺激臭はないが,跳ねた滴が眼に入るとダメージを受けるので,安全眼鏡を着用する. Fig. 4 漂白・すすぎの例 1. 有機溶剤抜き 残留した有機溶剤と漂白液との反応が怖いので,晴天時を狙い風通しの良い屋外に2日ほど放置して完全に抜く. 厳寒期や梅雨時,大型魚の場合はもう少し長めに放置する.   2. 漂白 オキシドールないしは1~3%に希釈した過酸化水素水に漬ける(Fig. 5). 残った軟組織が発泡してホネが浮くので,一回り小さいタッパーやPP板で落とし蓋(金属はNG)をし,漂白液液面下に沈むようにする. 使用後の漂白液は,短期間のうち,かつ,数回であれば使いまわし可能だが,危険なので絶対にスクリューキャップ式の容器で保管しないこと(注意点5-2を参照)! Fig. 5 漂白の様子 a) 漂白液に浸した様子, b) 「落とし蓋」をしてホネを水面下に沈めた様子   3. すすぎ 大きめの容器にたっぷりの水を用意し,何度も水を入れ替えながら漂白液を完全に抜く(Fig. 6). 同サイズの容器が2つあると作業が楽だ. 魚体や水量によって適切な回数は異なるが,冬季は10回目以降のすすぎで一晩放置することもある(夏季は怖いので一晩放置は