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魚話その210 シン・リアルタイム骨取りその4 ~脱脂やるよ~

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 ●チカメキントキの全身骨格を例に   カリカリに乾燥したら薬品による脱脂スタート. 乾燥で腐敗を遅らせることはできるが,脂の酸化はどんどん進行する. あくまで概念図だが,時間と除肉とホネの色はFig. 1のような感じになるので,変色が始まる前に除肉と乾燥を切り上げたい. 魚種によっては数日で黄変が始まる.   Fig. 1 時間経過と変色のイメージ タチウオの全身骨格のように長くて柔らかい魚は胴体部分をロール状に巻いたり,普通の形状の魚でも負荷のない範囲で曲げたり,尾椎右側に切れ込みを入れ容器に合わせて折ることもある. Fig. 2 脱脂に向けポーズを変える a) 容器に合わせ尾椎を折ってケースに収めた様子(チカメキントキ).b) ガラス容器に合わせ長い胴体を丸めた様子(タチウオ) 1. アルコール脱脂 ぎりぎり収まるサイズのPP製タッパー(Fig. 2)を探し,エタノールに沈める. ビー玉の使用で薬液の節約(通常サイズで約2.3mL,大型で約4.2mL)は可能だが,重量や衝撃でパーツ破損が破損するので注意. 数日間浸しておき,晴れた日に屋外で風乾. 動物や風による紛失・破損にも注意だが,毒性が低いとはいえエタノールも燃えやすいので,火気厳禁だ. Fig. 3 アルコール脱脂の様子 とりあえず不特定多数に無条件公開する脱脂法はここまで. アルコールによる脱脂の繰り返しと漂白でもでも脂はそれなりに抜けるので,風乾後は漂白工程に移るのも1つの選択肢だ. 実際,キアンコウやカワハギ類は脂が非常に少なく,アルコール以外の有機溶剤を用いた脱脂工程を省略しても白く仕上がる(Fig. 4).  Fig. 4 アルコールのみで脱脂したウスバハギ全身骨格(漂白後) 10年以上ホネ取り法を記事で更新できなかった理由の1つは, 「自己責任で」 書いても読み落とされてしまう可能性があったためだ. というわけで,どうしてもアルコール以外の有機溶剤を用いた脱脂法も知りたいという方は,下記の「警告」とその下の「警告に同意してアルコール以外の有機溶剤を用いた脱脂法も読む」をクリックしていただき,閲覧してほしい. アルコール脱脂のみで構わない場合は,ここで本日の記事は終了.   【警告】 リンク先の記事で紹介している手法は,慢性的な中毒症状,火災,死...

魚話その209 シン・リアルタイム骨取りその3 ~頭部の除肉やるよ~

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● チカメキントキの全身骨格を例に     今回は頭部の JO ☆ NI ☆ KU 開始. 見やすい角度や説明のしやすさの都合で,いくつかの魚種が混在しているが勘弁してほしい . どうしても撮りやすい形状などに差異があるのだ … 【注意!!!!!】 今回は除肉の回なので,解体中の写真が多数出てきます. 食用に魚を捌く写真とほぼ一緒なのですが,血や内臓が苦手な方がいらっしゃるかもしれません. それでもご覧になりたい方のみ以下の本文をご覧ください. 【注意!!!!!】   1. 肩帯と腰帯の分離と除肉 肩帯と,(魚種によるが)腰帯を外す. 肩帯はいくつかのパーツで後頭部と連結しているわけだが,板状のパーツが重なっているだけであるため、時間が経つと重なり具合が分からなくなる. 適当に組み立てるのも一つのやり方かもしれないが個人的にはモヤモヤするので,左右で異なる連結部位で分断しておき,情報を残すようにしている.   Fig. 1 a) 頭部と肩帯の分離している場所,b) 分離された肩帯および腰帯,c) 除肉後の肩帯および腰帯(黒矢印が後側頭骨,赤矢印が擬鎖骨) 普段は後側頭骨-上擬鎖骨間(上の黒三角)か上擬鎖骨-後擬鎖骨間(下の黒三角)で分離している. 今回は偶然既にグラついている部分があったので,左肩帯は上擬鎖骨‐擬鎖骨間で,右肩帯は神経頭蓋‐後側頭骨間で外した.     2. ヒレの除肉 新鮮で冷凍焼けしていない魚限定だが,鰭条の付け根に切れ込みを入れピンセットで慎重に引っ張ると,手袋を脱ぐように皮を剥くことができる(Fig. 2). ついでに鰭条の間の膜もクリーニング.     Fig. 2 ヒレの除肉(イヌゴチ) 魚種により難易度は大きく異なるが、皮が厚い魚種は新鮮なうちに剥皮を済ませた方が後で楽.   小型魚の場合は肩帯や腰帯をが小さすぎて除肉時に持ちづらいこともあるので,頭部からの分離と順番を入れ替え,持ち手代わりにすることもある. 大まかな流れは大体一緒だが,細部はその時の気分や魚種でアレンジしている.   3. 頭骨の除肉 頭骨の除肉はとにかくパーツの紛失に注意しながら作業を進めている. Fig. 3は 過去...

魚話その208 シン・リアルタイム骨取りその2 ~胴体の除肉するよ~

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●チカメキントキの全身骨格を例に  しばらく余裕があるかなと思っていたら,仕事帰りに寄ったスーパーで良い感じのチカメキントキを発見してしまったので,さっそく更新. Fig. 1 チカメキントキ(新潟産) 【注意!!!!!】 今回は除肉の回なので,解体中の写真が多数出てきます. 食用に魚を捌く写真とほぼ一緒なのですが,血や内臓が苦手な方がいらっしゃるかもしれません. それでもご覧になりたい方のみ以下の本文をご覧ください. 【注意!!!!!】   15年前の記事 と異なるのは,パイプ洗浄剤や入れ歯洗浄剤,塩素系漂白剤(ハイター)といった趣味ホネ界隈で大人気の薬品や熱湯を使わなくなったこと. 大型魚の除肉では熱湯を使用することもあるが,通常サイズの魚では熱湯もほとんど使わなくなった. 薬品除肉は手軽だが,魚では歯やヒレの末端,鰓蓋骨の縁といった細かい/薄いパーツの脱落や損傷・変形が発生することがあり(Fig. 2, 3),修復も面倒という欠点も伴う. なんだか逆行しているようだけれど,破損少なめの格好良いホネを飾りたいので,手作業メインに戻った.   Fig. 2 熱湯処理によるカサゴ類の歯抜け 歯が残っているイズカサゴ(上段)と歯が抜けたカサゴ(下段) 上下で種が異なるので厳密な比較にはならないが…歯が抜けてしまった時のイメージとして. 小さいパーツだけれど,抜けると結構目立つ上にナマズやカサゴのようなおろし金系の歯を持つ魚種は修復もはや不可能.   Fig. 3 次亜塩素酸ナトリウム処理によるワカサギ尾ビレ軟条の破損 10倍希釈なのでかなり濃いと感じるかもしれないが…もっと薄くても長時間放置すれば同じことが起きるかもということで,参考程度に見てください… ちなみに軟条は数珠つなぎの構造物なため,どこから欠けるかわからない. また,どの除肉用薬品も無縁ではないし,なんなら漂白で使用する過酸化水素水でも発生しうる.   1. 撮影 人によって記録方法は異なると思うが,メモなりスケッチなり写真なり,複数の方法でたくさん残していくのが良いと思う. 良い感じ(に見える)全身写真が1枚撮れても,「棘と鱗が同色で見辛かった…」「もう少し斜めから見たかった…」と後悔したことが多々あったので,こ...

魚話その207 シン・リアルタイム骨取りその1 ~使用している器具や薬品など~

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●チカメキントキの全身骨格を例に Twitterって手軽で楽しいね! このブログの全盛期は長い大学院生の頃で,2010年前後は卒論・論文投稿・就職・引越的etcがてんこ盛りで疲弊,社会人になってからは魚のホネがメインになってしまいネタの多様性確保ができず,更新が途絶えた次第. さて. 今から15年前に 「リアルタイム骨取り」 というタイトルで魚の全身骨格作製の様子を公開した. 当時は薬品による除肉を行っていたが15年間で手法が二転三転し,最近ひと段落ついたので,改めて現在の手法を公開.     Fig. 1 ミノカサゴの全身骨格 2009 年作製(下段)と 2019 年作製(上段) 今回は「僕はこういう手順でホネ取りをしていますよ」という,ふわっとした紹介調で書くつもりだ(安全衛生管理に関連する項目以外). そもそも魚の骨格標本を作ろうとしてここに辿り着く人は,既に詳しい人が多そうだし,ホネ取りハウツーサイトもいっぱいあるので,今更ドヤって書いてもな…と. さて. 現在の僕のホネ作業はこんな感じ.   Fig. 2 作業フロー   使用している道具と薬品は以下の通り. 状況に応じて適宜追加・省略しているが,使用頻度が高い道具のリスト.   1. 道具   Fig. 3 使用している道具 1) バット…刃先の保護とサイズ展開の多様さ・価格から,PP(ポリプロピレン)製を愛用. 2) 手袋…食用魚メインだが,手に臭いや汚れがつくと他の作業ができないし,有害な薬品や死体を扱う時に備えて手袋慣れしておくという目的も込みで. 3) ハサミ…よく切れるものを. 4) ピンセット…除肉用に鉤付きと頑丈なやつを3本(HOZANのPP-101やPP-103,PP-105),組立用に1本(KFIのK-3とか)を愛用(Fig. 4a). 5) スパチュラ…除肉時に肋骨の間等のクリーニングに使用している.マグロのすき身を取るような感じで使用. 6) メス…カッターナイフやデザインナイフ等で代用可. ただし,カッターは構造上どうしても刃がガタつくので,僕はほぼ使わない. 交換式ではなく割高だが,ホームセンターや模型店で超精密ナイフ的...

魚話その206.5 マダイ天獄~ケータイグラビア編~

 本文は…ちょとまててください… ちなみにウェブブラウザで閲覧するより,一度ダウンロードしてからPDF閲覧ソフトで見た方が見やすいと思います. まだ試作段階なので,なにか感想や誤植があればこっそり(優しく)教えてくださいませ. 下記内容についてご理解・ご了承いただけた方のみ,個人的にご利用ください 【ダウンロード前の注意】 ・素人が趣味で作成した資料なので,鵜呑み厳禁です ・ウェブ配布の特性を活かし,ファイルを随時更新するつもりなので,二次配布/二次使用しないでください ・作製は全て個人で行ったため,誤表記が残っている可能性は多分にあります ・万一トラブルが発生しても,補償できません ・個体差は多々あるので,これが正解というわけではありません マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.133) madai_smartphone_ver.1.133.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.132) madai_smartphone_ver.1.132.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.131) madai_smartphone_ver.1.131.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.13) madai_smartphone_ver.1.13.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.12) madai_smartphone_ver.1.12.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.11) madai_smartphone_ver.1.11.pdf マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.10) madai_smartphone_ver.1.1.pdf 旧バージョン マダイ頭部パーツのしおり的ななにか(スマホ版)(Ver. 1.01) madai_smartphone.pdf

魚話その206 マダイ天獄~頭部グラビア編~

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  ●マダイ頭部パーツの写真集を作ってみた   今から1年ちょい前の話. いきもにあ(2015年12月開催)にて,何を血迷ったか“マダイの頭部パーツ検索チャート”なるものを作成,会場と ウェブで配布 した.   図1.マダイの頭部パーツ検索チャート あのチャートは生真面目に全てのフローを追ってパーツを1個1個同定するものではなく,「見りゃわかるわい」といったパーツを全て除いた後の,決め手に欠けるパーツに使用するものだ. 人によって迷うパーツは異なるだろうと考えた結果,全てをチャートに入れることにしたのだ. さて. 苦労した割には紙ペラ一枚で終了してしまったチャートであるが,いくつか追加したいことがあった. その一つが,複数方向から観察した写真である. 卓上にばら撒いた時に安定して向きをチャートに描いたものの,使用者にパーツをぐるぐると回してもらい図と比較してもらうのがチャートの主な使用法である. ただ,画力のなさに加え,もうちょいユーザーフレンドリーにしたいと常々考えており,打開策として複数方向からの写真を追加する計画は以前からあった. しかし,マダイの頭部パーツは左右の重複を削っても50弱あり,どうせなら4方向は撮りたい. そうすると単純計算で200枚.   図2.撮影方向別に分けた頭部パーツ(後述の深度合成済ファイル)   しかも起伏の激しい小さなパーツを手前から奥までピントが合った写真を撮影するのは困難であるため,マクロレンズを使ってピントを手前から奥までずらしつつ30枚前後撮影して深度合成する…といった工程をパーツの数だけ行うということを意味する. 深度合成に関してここで説明するスペースはないので,ちょいと古いけれど, こちらの記事 を参考にして戴きたい. 図3.深度合成の概念図 a)手前から奥まで0コンマ数ミリ刻みでカメラをずらして撮影,b)ZereneStackerという深度合成ソフトで1枚にまとめる で,ここで何枚撮影したら良いのかを試算すると,ええと…50(パーツ)×4(方向)×30(枚)=6000… 大体ここら辺まで試算して心が折れること数回,構想から1年半の歳月を経て,展示物が用意できない時にお茶を濁すための配布資料としても使い回しできそうだという希望を支えに,睡眠時間を削ってちまちま作業. ついで...

魚話その165 もう魚しか見えない その04

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●和本と魚尾 ※SeeSaaブログ2010年06月24日掲載記事を移植しました 最初は本の引っ越しの話. 最大の懸念事項であった書物の引越しは自力で運ぼうとものの,試しに詰め込んでみて唖然.     図1.a)引っ越し前の本棚周辺,b)新居の書籍スペース   世間の読書家からすれば微々たるものであるし,『魚本の近くにいるものこそ自分』とまでは思わないが,執筆に便利なので,散逸は避けたい. ただ以前はルアー製作部屋を兼ねていたため大量の埃にまみれており,職場移転の隙に無休で整理していたら,軽い喘息が発生. というわけで,書籍代を削り,本の引越しだけ業者依頼することにしたのであった… さて. つまみ食い同様,片付け中に読む本は大変面白い. 今回も,小説の地層から,なぜか‘倭漢三歳圖会’の原書を発見. 後は言わずもがな…     図2.倭漢三歳圖会a)外装,b)内側 何度となくこのブログでも登場する書籍のオリジナルで,2010年初頭に入手した. 良品・全巻揃えで100万円以上するのだが,不揃いの書籍は様々な情報を欠くため,格安で入手することができるのだ. ちなみに僕は魚の部分だけを数千円で入手した. これは他の和本に関しても言えるので,もし興味はある人は探してみると良い. ただし,似たようなことを考える人は多いこともお忘れなきよう. ところで,倭漢三歳圖会をはじめとする江戸時代の本の折り返しには墨付きカッコ(【)のような模様が入っている. 和本は週刊誌の袋綴じのような構造をしており,半分に折った紙を重ねているのだ. そして上記の模様は折る際のセンター決めに付けられるそうだが,魚の尾鰭を想起させることから‘魚尾(ぎょび)’と呼ばれている.     図3.和本の魚尾(矢印).a) 倭漢三歳圖会,b)倭漢三歳圖会(折り目を開いた状態),c)博物教授書,d)陸氏草木流図解   細かい話は割愛するが,魚尾の元となった魚の尾…もとい魚の尾鰭は骨格の形状に基づき,いくつかのパターンに分類される(図4).   図4.a)尾鰭の形態的分類(左列)と例(右列).白っぽい部分は骨格の略図.(クリックして拡大) このうちの正尾が魚尾のイメージになっているのだろう. タイやカツオ,ボラ,コイといった当時の‘メ...